情報社会の命運を握る「高濃度水素」
AI関連銘柄の大本命と目されていたフジクラの株価が、「水素供給不足」が主要因となる業績見通しの悪化で株価がストップ安から大暴落した。光ファイバーや半導体製造に必要となる高濃度水素とはいったい何なのか?
光ファイバーや半導体製造に必要な高濃度水素の世界的な争奪戦が始まっている。これは単なる一産業用ガスの需給逼迫という問題にとどまらない。それは、AI、自動運転、クラウドコンピューティングなど、今後の技術革新のスピードそのものを左右する「情報社会のボトルネック」になり得るからだ。
高純度水素の供給が滞れば、それは直ちに半導体の歩留まり悪化や光ファイバーの生産遅延を引き起こし、世界中の電子機器メーカーや通信インフラ事業者に連鎖的な影響を及ぼす。今後、半導体メーカーや光ファイバーメーカーは、従来の「安く買って供給を受ける」というモデルから、精製メーカーとの長期的なパートナーシップの構築や、独自技術によるサプライチェーンの確保へと戦略を転換していくことが予想される。
争奪戦が始まった3つの理由
この産業用・電子材料用の高濃度水素が、なぜいま世界的な争奪戦を引き起こしているのか。その理由は、需要の急拡大と供給サイドの構造的なボトルネックにあります。
世界的なデジタル化の波と半導体工場の新設ラッシュ
AIの急速な普及やデータセンターの拡張により、半導体の需要は爆発的に伸びている。さらに、地政学的なリスクを背景に、日本、米国、欧州をはじめとする各国が自国での半導体サプライチェーンの強靭化(工場誘致など)を進めてる。
これに伴い、世界各地で巨大な半導体製造拠点(メガファブ)が次々と稼働または計画されており、製造プロセスに直結する高純度水素の消費量は過去にないスケールで増大中だ。
供給側の限界
高純度水素は、単に水素を作ればよいというものではない。製造された水素から、酸素、窒素、水分、炭化水素といった不純物を限界まで除去する高度な精製技術が必要不可欠だ。また、水素は漏洩や爆発の危険性を伴う極めて扱いに慎重を要するガスでもある。
そのため、製造プラントから各半導体工場や光ファイバー工場へ、純度を維持したまま安全に輸送・供給できるインフラ(タンクローリーや専用容器など)とノウハウを持つ企業は、世界的に見ても限定される。
エネルギー転換(カーボンニュートラル)政策との競合
現在、世界中で脱炭素燃料としての「水素エネルギー」の活用に向けた巨大な投資が行われている。この動き自体は歓迎されるべきものだが、電力・運輸部門での大規模な水素需要と、エレクトロニクス産業が必要とする微量かつ極めて高純度な水素の製造・流通ルートは異なる。
エネルギー用水素のインフラ整備に資金や資源が集中する一方で、半導体グレードの水素生産への投資が追いつかず、供給の逼迫を招くという懸念が現実味を帯びている。
日本が直面する課題
日本は非常に重要な位置を占めると同時に、大きな課題を抱えている。日本の素材産業や化学メーカーは、世界的に見ても極めて高純度な水素の精製技術や供給能力において高い競争力を持っている。光ファイバーの製造においても、フジクラ、住友電気工業や古河電気工業といった国内企業が世界市場でトップクラスのシェアを誇っており、高品質な素材供給の要となっている。
しかし、日本国内での製造にはエネルギーコストの高さという課題がつきまとう。水素の精製には大量の電力を消費するため、製造コストはエネルギー価格に大きく左右される。日本政府は「水素基本戦略」や「水素社会推進法」を策定し、水素サプライチェーンの構築に官民で大規模な投資を行う方針を打ち出しているが、汎用品とは異なる「半導体・光ファイバー用高濃度水素」の安定供給をいかにして低コストで実現するかは、国内産業の競争力を維持するための喫緊の課題だ。

